社員と社会を幸せにする「幸福学」×「経営学」による企業経営

4月に労働関連法が改正され「働き方改革」が本格的に動き出しましたね。しかし、タイムマネジメント手法にばかり注目が集まっているように感じます。一方で、「働き方改革」なんてどこ吹く風、「仕事の報酬は仕事」と仕事を楽しみ、仕事を通じて生きる意味を見出し、生きることを充実させている人たちもたくさんいます。この違いはどこから来るのでしょう。
本書では、「幸福(well-being)」という切り口で、新しい企業経営の事例を紹介しています。
そして、本書の共著者のお一人、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司先生が、6月12日に北九州にいらっしゃいます。興味がある方は、コチラのリンクをご覧ください。

第1章では、前野先生が、日本の生産性が低い理由とそれを改善するヒントを幸福学の視点から述べられています。
会社の経営で一番大事なことは、社員全員を幸せにすることであるというと、「手段(=原因)と結果を混同している」という意見が多数寄せられた。つまり、「お金を儲けること」は経営の手段であり、「社員の幸せ」はあくまでその結果に過ぎない。原因となる手段があって初めて、求める結果が得られるのだから、経営がまず重視すべきは「利益の確保」に決まっているという考え方がいまだに根強い。

しかし、日本のGDPはこの半世紀の間に6倍になっているのに、国民の生活満足度は、1950年代からほぼ横ばい。「世界幸福度報告書」2018ランキングでも155か国中54位。

幸せのメカニズムを体系として理解することで、幸福学を誰もが実際に活用でき、もっと直接的に人の役に立つ実践的な学問にしたいと考えている。

誰もが共感・共有できる幸せの統合イメージ、”幸せの全体像”と呼べるようなものを描き出そうと研究を行っている。
人間の脳が幸せと感じる共通の基本メカニズムを解き明かし、それを誰もが実践できる具体的な知恵の形で導き出してこそ、幸福学は人々の役に立てる。

幸せの4因子
第1因子「やってみよう!」因子(自己実現と成長の因子)
第2因子「ありがとう!」因子(つながりと感謝の因子)
第3因子「なんとかなる!」因子(前向きと楽観の因子)
第4因子「ありのままに!」因子(独立と自分らしさの因子)

第3因子は第1、第2因子を補い、第4因子は第1、第2因子を制御することで全体として幸せを形づくっている。

1500人の分析の結果、I~Vまで5つのクラスターに分かれた。
クラスターⅠ:幸福度が最も高く、幸せの4つの因子がどれも高い。全体の2割。
クラスターⅡ:2番目に幸福度が高い。第1因子と第2因子は強いものの、第3因子と第4因子が弱い。全体の2割弱。
クラスターⅢ:幸福度は中程度。4つの因子もどれもが平均前後。全体の半数近く。
クラスターⅣ:第3、第4因子は高い反面、第1と第2因子が足りていない、やや不幸なグループ。全体の1割弱。
クラスターⅤ:幸福度が最も低く、4つの因子のどれも乏しい。全体の1割強。
第4因子の低い人は、つい自分と他人を比べてうらやましがったり、妬んだりしがち。自分をダメだと卑下しているので、闇雲に「自分らしくしよう!」と意気込んでも、なかなか変わらない。小さなことでもいいから自分が得意なことやワクワクする目標を見つけて、成長を実感したり、交友関係を広げて、他者から助言や支援を得たり、楽観的な考え方を学んだり、他の因子を併せて伸ばしていくことで、まず自分自身に自信を持ったほうがいい。

幸福度の高い社員ほど、創造性が高く、仕事の効率も高く、求められた以上の働きやソーシャルサポート(困っている同僚などへの手助けや食事に誘うなど物質的・心理的支援)を惜しまない。
Cropanzanoらによると、ES(従業員満足度)はパフォーマンスにあまり影響しない。「社員幸福度」との相関は高い。
幸福度は人間関係や家庭環境、余暇の過ごし方などを含めた、個人としての人生全般にわたる充足を測る指標。従業員満足度より範疇が広く、全体的。

好きなことに関する問いかけをいくつか重ねて、相手から答えを引き出していくというワークショップでは、対話を通じて、自分がもともと好きなことと現在任されている仕事とのつながりを、抽象度の高いレベルで再発見することができる。やりがいは、「幸せの青い鳥」と同様、自分が今いる場所に眠っていることが多い。曲がりなりにも自分で選択してきた結果として、現在の自分があるのだから。

第2因子が経営の視点から著しく欠落し、バランスが崩れると、社員のやりがいを”搾取”している状態になる。

「ホワイト企業大賞」では、全40問からなるアンケート調査を実施している。ここから、3つの因子が出てきた。「いきいき」因子、「のびのび」因子、「すくすく」因子。
基本的なポイントは、
・「権限の委譲」
・密な「コミュニケーション」
・任せる仕事の難易度

フロー(没入感)の研究では、限界ギリギリで仕事をしたとき、達成感や自信を得ながら没入し、成長もできるという結果が出ている。簡単すぎると面白くない。難しすぎてもストレスでしかない。多少の不安やリスクは伴うけれど、ちょっと背伸びすれば何とか届く「ストレッチゾーン」がよい。

第2章では、『ホワイト企業大賞』受賞企業の事例が紹介されています。
西精工(徳島市)
・社員のことを謳っていない経営理念は理念ではない。経営者は、社員本人だけでなく、その配偶者や子どもまでも背負う立場にある。社員の家族も含め、みんなを幸福にする「大家族主義経営」。
・社員との対話に注力。毎朝6時半までに全社員のパソコンに「乱文通信」という社内メールを送信する。経営理念にもとづくテーマを週ごとに設け、社長から考えや思うところを投げかける。受け取った社員はその日の夕方5時までに感想を書いて返信する。その返信の中からいくつかを社長が選んでコメントをつけ、翌朝の「乱文通信」としてまた送信する。
・「乱文通信」の3年間の対話のエッセンスを「フィロソフィー」として整理した。200項目からなるフィロソフィーは、毎朝の朝礼に活用されている。「係」単位の朝礼では、フィロソフィーの中から1項目を選び、3~4人のグループに分かれてディスカッションする。その後、グループ発表、質疑応答、総括と続き、全体で1時間弱をかける。
・社員との飲み会も頻繁に行われている。年間100日以上。参加者は1回に8名まで。それ以上になると、みんなで一緒に話せなくなってしまう。話題はもっぱら”仕事”に集中する。チームの誰かが何か問題を抱えていtら、それを解決するのは本人だけの責任ではない。リーダーを始め、周囲で関わっている人全員が自分の責任と捉える文化。
・障がい者雇用へも取り組んでいる。「働きやすいところ入れるだけならいくらでもできるけど、本人たちはそれを望んでいない。もっと違う関わり方があるのでは?」との社長の問題定期に、現場が改革に乗り出し、作業の標準書を作り、機械の付帯設備を交換するなど、職場環境の整備やチームづくりを進めた。
・社員という俳優の個性を活かしながら、ストーリーを紡ぎ、誰もが納得するラストシーンへどう結びつけていくか。

ぜんち共済(東京都千代田区)
・起業して5年間は経営理念なし。目に見えない思いだけで走り続けた。しかし、経営には、志や思い、使命感といったものが欠かせない。理念は重要で、5年目にして、ようやくつくった。
・組織の縦割り体質を打ち破るために、部署とは別に「経営理念浸透チーム」「コミュニケーションチーム」といった組織改革に資する社内横断型のチームを設けた。
・社内SNSを活用してあらゆる情報を公開・共有し、和気あいあいとした職場環境とオープンでフラットな関係性の情勢に努めている。
・スタッフへの入念なヒヤリングやアンケートも定期的に実施。その結果を毎年の事業計画づくりに反映させている。経営陣だけでなく、全社員で社内の課題を出し合い、その結果をどう認識しているか、どうすれば改善・解決できるのか、さまざまな点から見つめ直している。そうすることでスタッフ間には、「言えば会社は応えてくれる」という信頼感や参加意欲が広がっていく。
・社長は、「人本経営」小林秀司著と出会い、小林氏が主宰する「人本経営実践講座」に参加。具体的な施策を実践している。例えば、社員の一番大切な人の誕生日に、毎年、感謝のメッセージを添えて花束をプレゼントする。
・報連相は上司から。
・社員に関心を持つこと。3回の個人面談では社長はひたすら傾聴に徹する。

アップライジング(宇都宮市)
・通販から店舗販売へ展開した当初、最初は声が出せなかったり、小さかったりしたが、朝礼を始めてから、大きな声で元気よく挨拶出来るようになった。朝礼は、社長の訓示、経営理念や社訓の唱和、倫理法人会で配っている道徳テキストの音読、それらを活用した自由発言のスピーチなど、トータル20分ほど。
・「許し、受け入れる文化」を育み、就労困難者を積極的に受け入れている。できることが見つかれば、やりがいや喜びが生まれ、成長につながる。それは、健常者も障がい者も同じ。

ダイヤモンドメディア(東京都港区)
現在でこそ、ホラクラシ-的色彩の濃いしくみがいくつも整い、機能しているが、創業した2007年当初は、「自然の摂理に則った組織をつくる」という漠然とした理想だけがある状態だった。
ほったらかすと本来の生命力を発揮して、ノビノビと健やかに育つ。人をあえて育てたり、やる気にさせたりする仕組みは一切ない。教育制度も、モチベーション管理の施策もない。学びたければ聞けばいい、教えたければ教えればいいと、すべて現場の必要性・必然性に委ねている。成長する人は成長する。
排除すべき阻害要因は、縦社会のヒエラルキーによる一方的な管理であり、それにともなう理不尽な権力構造や情報の不透明さ。

武井代表が感銘を受けた書は、「経営の未来」(ゲイリー・ハメル)、「非常識経営の夜明け」(天外伺朗)、「奇跡の経営」(リカルド・セムラー)。

精神論ではなく、「みんなが幸せになれる会社」をシステム化して回していけないものかと考え、日々のオペレーションから組織設計、査定や採用などの制度設計まで、具体的な経営システムを構築した。柱となるのは、
①情報の透明性・対称性
②労使・権力の消失
③報酬・人事システムの確立

・組織図がない。ファンクショナルな意味での組織デザインは存在するが、誰がどのラインに属するのか、誰が上司で誰が部下かというような人事的な管理体制や指揮命令系統には縛られない。
・現場での日々のコミュニケーション(ディスカッションとリフレクション)を大切にしている。意志決定はその場で行われる。リーダーや責任者的な役割を担う人もチーム内からの自然発生に委ねられている。
・みんなの意見をすくいあげることは重要だが、多数決には頼らない。意志決定の権限と責任は組織全体に細かく分散させている。
・代表と役員は、毎年、選挙を実施している。ディスカッションを重ね、情報を組織内に繰り返し循環させ、意思と意思を丁寧にすり合わせる。この循環のプロセスを2回転させると、納得感と合理性がバランスよく着地する。
・給与額も含め人材採用や設備投資などのお金の使い方については、半年に一度、「お金の使い方会議」を実施。給与は相場に委ねるだけだと給料バブルが起きかねないので、3つのガイドラインを定めている。
客観的なデータや事実を明らかにする
共有資産への貢献を見る
将来への期待値、自己評価、一定期間内での成果、業務内容の変化など相場を崩すモノを考慮しない
すごく能力があるのに活かしきれないということもあるだろうが、あり余っている能力にまで、対価を支払わない。その代り、副業、起業を推奨している。
・理念はあるが明文化しない。仕事のながれもカネの流れも可視化し、情報の透明性を担保しているので、不正やごまかし、権力の乱用は起こらない。自分で自分の強みを活かせるポジションを見つけて組織に貢献することが求められる。理念や計画で「かくあるべし」と枠にはめてしまうと無理が生じ、歪がでて、長続きしない。理念は”念”だから、言葉にはできない。言葉にできないものは、仕事で表現するしかない。

幸福学×経営学 次世代日本型組織が世界を変える
前野隆司、小森谷浩志、天外伺朗著、内外出版社刊

 

ABOUTこの記事をかいた人

Thomas

品質マネジメントや工程管理、コンプライアンス、リスクマネジメントなどの仕事に携わり、仕組みを動かすのはひとだと痛感しました。ひとがイキイキすると、職場や社会もイキイキします。