コンプライアンス研修に求められるもの (No.7)

前回お話したように、全社的なコンプライアンス推進の枠組みのなかで、企業風土の醸成、企業理念の浸透などともむずびついた教育が必要になってきます。

私自身も、いろいろなコンプライアンス研修を受講しましたが、座学による一方通行の事例紹介に終始したり、違反者への罰則などネガティブなプレッシャーを与えるものが多いように感じます。もちろん、事例を学ぶことは大切ですし、違反を起こすとどういう処罰を受けるのか知っておく必要はあります。しかし、過度なプレッシャーは、不正の3要素のところでお話しした動機づけの新たな要因にもなりかねません。つまり、コンプライアンス違反を「あってはならない」ものと硬直的に考えてしまうと、万が一、不正行為が発見されたときに、隠ぺいに走ることになりかねないのです。

むしろ、コンプライアンス違反は、起こる可能性のあるリスクだと捉え、発生の可能性をいかに減らし、発生した場合の損失をいかに小さくするかと考えた方がよいと思っています。

私自身が講師としてコンプライアンス研修をするときには、企業理念に立脚したエンゲージメントの向上や従業員通しの円滑なコミュニケーションが取れる職場雰囲気の醸成がなされることを目指して、ワークショップ型、参加型の研修を心がけています。

 研修の最後には、「私のコンプライアンス宣言」というものを書いてもらって、みんなの前で発表してもらうということもしています。ヒトには、過去に自分が言ったことと矛盾が起きないような行動をとるという、無意識の心理傾向があります。自分はコンプライアンスにつて、どんな行動をするのかを宣言してもらうことによって、不正を起こしにくくするという心理効果を狙っています。

 

組織的な不正への対処

従業員が個人的に起こすコンプライアンス違反は、仕組みの構築、企業風土の醸成、相談しやす雰囲気づくりなどで発生のリスクを減らすことができます。ところが、組織ぐるみの不正、特に経営層を巻き込んだような不正については、これだけでは十分でないように感じています。

その理由は、一つには、日本の企業では、取締役会と執行役員が未分化であることが多いということ。第1回の歴史のところでも少し書きましたが、取締役会は、株主の命により、代表取締役(社長, CEO)を選び、そのCEOががちゃんと企業を経営をしているか監視しする(コーポレート・ガバナンス、企業統治を遂行する)監視機関です。一方、CEOは執行役員や従業員を使って、事業を行います。つまり、CEOや執行役員は企業経営を行う執行機関です。ところが、日本の企業では、取締役会の取締役が執行役員として実務を行うことが多い。つまり、CEOを選ぶ立場と、CEOの部下として事業執行する立場という相反する立場に置かれています。このような状況では、取締役が取締役会でCEOに諫言するのは難しいですよね。

二つ目は、日本の意思決定は、集団合意によることが多い点。社会心理学では、1人で意思決定を行う時よりも、集団で行う時の方がリスクの高いものとなってしまうというリスキーシフト現象がやすいと言われています。「この程度の違反、大事にはならないんじゃない」と、安易な方へ流れてしまう危険があります。

三つめは、日本人に特に顕著な、忖度や恩返しといった習慣や態度。「社長がああ仰っているのなら」とか、「彼には以前世話になったから」と言った理由で、相手によって、対立する意見を口にださないようにしたという経験がありませんか。

いずれにせよ、共通して言えるのは、
仕事ぶりよりも好き嫌いで人を評価する傾向がある
問題やトラブルに対し、『原因が何か』よりも『誰の責任か』を問う雰囲気がある
など、“事柄”でなく“人”を基準として意思決定される組織の風土が問題です。

また、
トップマネジメントの「ツルの一声」でこれまでの決定がひっくり返ることがある
問題やトラブルの対応や対策を先送りし、「臭いものには蓋」をするという雰囲気がある
など議論や検討を嫌う風土も問題です。

これを防ぐためには、意志決定の手続きを整備し、その手続きを遵守することも必要だと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

Thomas

品質マネジメントや工程管理、コンプライアンス、リスクマネジメントなどの仕事に携わり、仕組みを動かすのはひとだと痛感しました。ひとがイキイキすると、職場や社会もイキイキします。