質問の効力「自尊心をくすぐる質問法」

「質問は、相手を強制的に特定の方向で考えさせる力を持っています。」谷原誠著『「いい質問」が人を動かす』より

社員がなかなか定着しない、育たないという職場において、その原因の一つは間違った命令と質問力の不足でないか?と私は考えています。

『質問の効力』シリーズ 最終回は「自尊心をくすぐる質問法」です。

6月以降は、多くの企業で社員研修の最終段階を迎えます。
これまで先輩や上司と一緒にやって来たことを、自分だけ実践させる時期です。

実は、早期離職者が大量発生する第一波が、この時期だといわれます。
なぜなら、お手本やフォローがない状態で緊張感が高まり、今まで出来ていた仕事でも些細なミスをしたり、想定外の出来事に遭遇してアタフタしたりと、何かとトラブルも発生する時期だからです。

今回は、そんな時にこそ効果的な質問法を紹介します。

自尊心をくすぐる質問とは

新入社員にミスは付きものです。そしてミスをするという経験も、新入社員にとっては”成長の種”となるのも事実です。しかし、成長の種を実らせるか腐らせるかは、教育を担当する上司次第です。
つまり、自尊心を高める指導をするか、自尊心を損ねるそれを選択すか否かということです。

自尊心を損ねる指導法は前回触れましたが、今回は自尊心を高める指導法の一つ「自尊心をくすぐる質問」を紹介します。

人は誰しも、褒められたり頼られたり、または共感してもらうと嬉しくなるものです。
そして、嬉しいことは何度でもやろうとします。特に嫌なことが起こった後に嬉しい出来事があると、その嬉しさは倍増することもよくある事です。
自尊心を”くすぐる”というのは、嬉しいと思わせることです。もっと平たく言うと「良かった」と思わせることです。

つまり、新人がミスをしても、そのミスが結果的に良かったと思えるような展開にもっていく質問法が「自尊心をくすぐる質問」ということです。

自尊心をくすぐる質問は、①前振り質問 ②予見の質問 ③意味付け の3段構成が基本です。

①前振り質問
上手く行かなかった時の相手の気持ちや状況を訊ねる質問を、クローズドで質問します。
例えば「何か考え事でもあったの?」「疲れが溜まっているんじゃない?」「仕事が重なっていたんじゃない?」「体調が悪いの?」「他に急ぐことがあったの?」などです。

つまり、上手く行かなかった背景に何があったのかという事に意識を向けるための質問をするということです。しかしこういう質問をすると、大概は「いいえ」とか「そんなことはありません」という答えになると思いますが、前振り質問では答えの内容にはあまり意味がありません。
自分の精神状態や仕事の進捗状況に意識を向ける事が大切です。

②予見の質問
上手く行かなった事を、事前に予見できたかどうかを考えさせる質問です。やはりクローズドの質問をしますが、ここで肝心なのが「本音を言わせて安心させる」仕掛けをすることです。
例えば「正直、こんな展開になると思った?俺は思わなかったけど…」「この事態、誰も予想できなかったと思わない?」「まさか○○になるとは思わなかったよね?」「こんなことアリだと思う?」などです。

つまり、この質問は事態を客観的に振替させる質問ですが、同時に相手に共感する演出を加えることが重要だということです。自分の精神状態や仕事の進捗状況に意識を向けると同時に、一歩引いて事態を捉えて「何が起こっていたのか」という視点に導き、その後で「やっぱりそうですよね」という気持ちにさせて安心させるのが、この質問の意図です。

③意味付け
これは質問というより、「まとめ」といったところです。
そして、自尊心をくすぐる質問の仕上げでもあり、上司の気質が最も現れるところです。
例えば「お前のお陰で新しい発見があったよ、ありがとう」「初めての経験をよく乗り切ったね、お疲れさん!」「この経験がやがて後輩のためになると思うよ」といった感じです。

つまり、上手く行かなかったことでも、こんな風に捉えると良いのではないか。という提案を相手に投げかけるということです。相手がそれを受け止め同じように思うのかは分かりませんが、少なくとも、何かのためになったはずだ。と思わせることが大切です。

部下に考えさせる必要がある時こそより効果的

自尊心をくすぐる質問は、仕事が上手く行かなった時に効果を発揮します。
本シリーズの第二回目で紹介した「人を動かす質問」のやり取りを例に説明します。

部下「すみません、契約取れませんでした」
上司「それは残念だったね。何かこっちに不備があったのかな?」
部下「不備というより先方が仰るには、○○社より値引き率が低いと言われました」
上司「そうか、○○社との違いはしっかり説明できたの?」
部下「それが、もう○○社と契約したから、と言うだけで聞いてもらえませんでした」
上司「それはきつかったね~。ところで、○○君、他に急ぐ要件でもあったの?」
部下「いえ、別に…」
上司「そうか。じゃ最近仕事が詰まっているようなこともなかったの?」
部下「はい・・・」
上司「そうか。ところで、○○社の値引きがそれほど高いと予想できたかい?俺は出来なかったよ」
部下「そうですよね。正直私もびっくりしました」
上司「そうだよね。でもこれで相手の手口が一つ分かったよね、ありがとう!」
部下「えっ!」
上司「えっじゃないよ、今回は残念だったけど、結果的には次へのヒントを得たんだよ。そう考えれば良かったんじゃない?」
部下「はい、そうですね。でも次は取りましょう!」
上司「よし、じゃ次の作戦を練ろうか。こっちは値引きに合わせる訳には行かないなら、何を提案する?」

こんな感じです。
もちろん、質問は無数にあるので、これが正解ということはありませんが、相手の自尊心を損ねることなく自分に向き合わせることは、くどくど説教するよりもはるかに効果的で、しかも短時間で済むので効率的です。

同じミスを繰り返すのは自分事になっていないから

いくら言ってもまた同じようなミスを繰り返す人は、仕事が自分事ではなく他人事になっている傾向にあります。
つまり、ミスをしたのは教え方が悪いから、そもそも聞いていないから、指示通りにやったのに…というように、責任転嫁する人を指します。

自尊心をくすぐる質問は、他人事になっている人にも効果を発揮します。
そのカギを握るのが②の予見の質問で、共感して認めてあげることです。
ミスを繰り返すのも相手なりの理由があり、それを正当化したい気持ちがあるはずです。ちょっと我慢しなければいけない場合もありますが、そこは大きな心で一旦受け止め、共感することが大切です。

共感することは、甘やかすことではなく、相手を理解し認めようとする気持ちを訴えることです。
人は、人に認めてもらうと喜びます。
そういう感情があって、やっと仕事が自分事になってゆきます。

つまり、ミスを繰り返すことだけにフォーカスするのではなく、そういう事態を引き起こす要因に着眼することが大切であり、それを自分で考えさせるようにもって行くのが、若手の教育には必要ではないでしょうか。

待つのも教育の一つです。

人は自分で考えたことには喜んで従います。そのためには、自分に向き合い何をすべきか自分に問うという訓練が必要です。
それには質問をしてあげることです。そしてその答えをしっかり聞いてあげることです。

その時は「はぁ…」とか「へぇ~」とだけ言って「分かっているのか?」と思うようなリアクションも多いと思いますが、そこは我慢も必要です。
そうは言っているけど、実は考えてるというケースは山ほどあります。誰しも一度や二度はそういう経験をしていると思います。

考えている社員は、何かしら行動が変化するのもです。それを待つことも立派な社員教育です。

まとめ

これまで様々な質問法を紹介してきましたが、質問は、相手を強制的に特定の方向で考えさせる力を持っている。という事実を知り、その力を上手く活用していただきたいと、切に願っおります。

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ABOUTこの記事をかいた人

yasuhiro kouno

キャリアコンサルタントの高野(こうの)です。 「競争社会から共創社会へ」という大きな夢の実現を目指しています。 自分では気づかない未知の可能性に気づく体験プログラムを、多くの方に味わっていただきたいと思っております。