人を動かすには命令してはいけません。

「人を動かすには、命令してはいけません。質問をすることです。人をその気にさせるのは、質問をすることです。人を育てるには質問をすることです。」

谷原誠著『「いい質問」が人を動かす』より

社員がなかなか定着しない、育たないという職場において、その原因の一つは間違った命令と質問力の不足でないか?と私は考えています。
今回から、「命令と質問」について考えてゆきたいと思います。

命令を下すべき立場の人は、どのくらい命令してますか?

会社の大小を問わず、組織の中で命令できる立場の人は限られていると思います。
一般的には、経営者ですが、他には役職に「長」と付いている人が浮かぶと思います。
では、そういう人たちは、日頃どのくらい命令を下しているのでしょうか?

組織で成果を出すには、構成員にそれぞれ役割と責任を割り当てるのは当然ですが、中でもリーダーという役割は、その組織のパフォーマンスにとても影響する立場です。
実は、高い成果を上げている組織のリーダーは、あまり命令しないということをご存知ですか?

かのドラッカーは、「マネージャーを見分ける基準は命令する権限ではない。貢献する責任である。」と言っています。
成果を上げるリーダーは、命令ではなく仕事の意味を説きます。成果を求める前に、相手にどれほどの貢献が出来る仕事をしたいかを問います。
ワンマンタイプで皆を引っ張ってゆくタイプのリーダーもいれば、和を重んじて関係性を重視するタイプのリーダーもいますが、そういったタイプの差ではなく、高い成果を上げる組織ほど、そのリーダーに求められる気質は「摯さ」です。(P.Fドラッカー著「マネジメント」より抜粋)

もちろん、できるリーダーが全く命令しないという訳ではなさそうですが、どうやら命令には効果を発揮する場面と、そうでもない場面があるようです。

命令が効力を発揮する場面は限られている。

職場において「命令」が最も効力を発揮するのは有事の時です。
「売り場が火事になった」「得意先が突然倒産した」「災害で原材料の供給が止まった」など、非常事態が発生した時は、非常に高度な経営判断を迫られれると同時に、一刻も早く事態を打開するために経営責任者やリーダーは、即座に命令を下し、部下にしかるべき行動をさせる必要があります。
有事の時こそ時間が命取りとなるため、いちいち「みなさんはどうしたら良いと思いますか?」などとディスカッションしている暇などありません。
部下の側も、しかるべき人から正しい命令を受けた方が、余計な事を考えずに済むので安心して「今は何をすべきか」だけに集中できます。

次に「命令」が効力を発揮するのは、組織の方向性を変える時です。営業方針を大きく転換する時や、古い習慣を改めて新しい事を始める時などがそれに当たります。
当然ながら、判断を下す前にはいろいろと議論する必要がありますが、いざ変化の時を迎えた時こそ、リーダーの正しい命令(号令)が必要不可欠となります。

そしてもう一つ「命令」が効力を発揮するのは、職場やグループの意見がまとまらず、いつまでも方向性が定まらない時です。特に社員の対立を招く恐れがある時は、即座に正しい命令を下す必要があります。
職場の統制を図るために必要な命令もあります。
また、個人レベルでは、初めての仕事にチャレンジさせる場合や、気持ちが落ち込んでいる社員の背中を押す場面では、命令が良いきっかけとなることもあります。

一般論として、命令のやたら多い上司は嫌われるものですが、必要な時に正しく命令できない上司も然りです。貴方の会社の経営者や上司はいかがですか?
「命令」は組織を運営する上では必要不可欠な行為です。しかし、上司が正しい命令を下せるようにするには、働きやすい職場環境と信頼という土台作りがもっとも重要です。

正しい命令を下すための環境作り

命令を下すという行為は、責任者という立場上、容易にできるように思われがちですが、職場環境や信頼関係作りを間違えると、組織を崩壊させてしまう程の力を持つ諸刃の剣でもあり、実はとても難しい行為です。

正しい命令を下すためには、日頃から①誰が責任者なのか、②どんな時にはどんな行動を取ると良いのか、③何を準備しておくべきなのか、④それらはどうすれば手に入り出来るようになるのか、⑤前に同じような事態になった時はどうしたのか、⑥誰がどんな能力に秀でているのか、⑦誰がどの程度の知識を持っているのかなどを、責任者だけでなく職場の全員が認識できる環境作りが必要です。
具体的には「業務分担」「社則などのルール作り」「業務の定義付け」「仕事のマニュアル化」などを明確にして社員ひとり一人に丁寧に教え、情報を共有できる環境にする必要があります。

つまり、仕事がしやすい環境が整っていなければ、命令は部下にとって成すべきことが分からず、苦痛にしかならなりません。間違った命令は、環境が整備されていない職場ほど多く発せられ、部下の自立心や自尊心を否定してしまい、信頼関係の崩壊を招きます。
「売上をもっと上げろ!」とか「もっとよく考えろ!」というのがその典型例ですが、これはもはや命令にもなっていません。

信頼関係という土台の重要性

いきなり余談ですが、軍隊では上官の命令は絶対です。それは部下の勝手な行動が、部隊全員の命に影響するからです。そのため、軍人の教育は「前進!」と言えば前進し、「右!」と言えば右を向くなど、命令に素早く反応する身体を徹底的に作ってゆきます。つまり考えるよりも、命令や指示に正しく素早く反応する能力を高めることを求めます。そうでもしないと、命令するたびに「はて、今は右の方が有効なのか?皆はどう考える?」などと立ち止まっている間に敵の攻撃を受けてしまうからです。

当然ながら、会社は軍隊ではありません。しかし、上司と部下の信頼度という観点で考えると、部下は上司に命を預け、上司は部下の命を預かるという点で、これほど信頼度を重視する関係性はないと思います。
その信頼を裏付けするのが、日頃の厳しい訓練であり、お互いの交流だということです。

軍隊の例は極端かもしれませんが、どんな職場でも命令を下す側と受ける側には、一定の信頼関係は絶対条件となります。
つまり、正しい命令は役職や立場、ましてや権力だけで下せるものではなく、日頃の部下との交流がものを言うということです。
しかし、信頼関係の構築が不十分な職場の上司ほど、よく命令します。
分かってほしいのではなく、動いてほしいと思っているのか、または言われた通りにやってもれえればいいと思っているのか、いずれにしても部下の自立心や自尊心を否定することにつながり、ますます信頼関係は悪化します。

まとめると

命令は、相手を否応なしに強制する力があります。
だからこそ、間違った使い方をすれば、相手はつぶれてしまいます。

しかし、正しい命令は、組織のパフォーマンスを高めます。
個々の行動を統制し、しかるべき方向に導く力を持っています。

そのためには、職場環境と土台作りがとても大切です。というお話でした。

次回は「質問の効力」です。

ABOUTこの記事をかいた人

yasuhiro kouno

キャリアコンサルタントの高野(こうの)です。 「競争社会から共創社会へ」という大きな夢の実現を目指しています。 自分では気づかない未知の可能性に気づく体験プログラムを、多くの方に味わっていただきたいと思っております。